赤坂の日本料理店「一福」(港区赤坂6)が9月30日、65年の歴史に幕を閉じた。
同店は1948(昭和23)年に創業した老舗(しにせ)で、店主の伊藤竜二さんまで三代にわたり店を切り盛りしてきた。「創業時、赤坂はまだ焼け野原で飲食店がほとんど無かったと聞く。今の赤坂からは想像もつかない」と伊藤さんは話す。
初代・巌さんは夏場にはあいすくりん(アイスクリーム)、冬場にはおでんと、当時は珍しかったメニューを数多く提供し話題に。二代目の公惟さんのころからはランチ営業を始め、「忙しい赤坂のサラリーマンでも手早く食べられるように」と皿うどんとちゃんぽんをメーンに提供してきた。
「昔、赤坂は芸妓(げいこ)を乗せた車夫が道を走るようなとても風情のある街だった」と赤坂の街で生まれ育った伊藤さんは幼いころの記憶をたどる。伊藤さんは地元の青年部にも所属し、街のイベントにも積極的に参加してきた。「時とともに街は姿を変えていったが、ここに暮らす人々は変わらない。いつの時代も温かい人に囲まれてきたため、この地を離れるのが惜しい」とも。
創業して65年、多くの常連客がつき、営業最終日まで閉店を聞きつけた人で店はにぎわった。10月29日・30日に開かれた食器市では、初日は悪天候だったにもかかわらず、最後に一目店を見ようと長年親しんできた客が店先まで並んでいたという。
今後は場所を変え、宮崎県清武町で「赤坂 一福」の屋号を掲げ新たに店を構える予定。新店では、ランチメニューで人気だったちゃんぽんと皿うどんの2品を中心に提供していく。
「第二の故郷となる宮崎で、先代から引き継いだ味を守りつつ、新生『赤坂 一福』として地域の人に愛されるような店にしていきたい」(伊藤さん)。