11月3日、上智大学の学園祭「ソフィア祭」で第2回「ソフィアンズコンテスト」が開催されました。栄えあるグランプリを受賞した法学部地球環境学科3年の堤奈々美さんは、同大学の手話サークルに所属する傍ら、個人でも聴覚障がい者や手話への理解を広める活動を行っています。コンテストでもピアノ演奏と歌に合わせて手話歌を披露しました。編集部ではそんな堤さんに、グランプリ受賞後の気持ちと、コンテストを通じて彼女が発信したかった思いについて伺いました。
―――グランプリを受賞したいまのお気持ちをお聞かせください。
堤:率直に「うれしい!」その一言に尽きます。全力で取り組む姿勢をアピールできて、それが伝わったのかなと。ただ、グランプリを獲れたのは自分一人の力ではなく、全力でサポートしてくれた家族、温かい言葉をかけてくれた友人、運営スタッフ、切磋琢磨し合った他の3人のファイナリストたち、最後まで応援していただいた方々のおかげです。みなさんに感謝しています。
見事グランプリを勝ち取った堤さん
―――他の候補者3人は、堤さんにとってどのような存在でしたか?
堤:はじめは学年が同じという共通点しかありませんでしたが、コンテストを通じてお互いを知り、支え合い、共に苦悩や困難を乗り越え、今では、4人で仲良くふざけ合うこともあるくらい距離が縮まりました。ライバルというよりも、良い刺激を与え合い、高め合ってきた仲間です。
(左から)「ソフィアンズコンテスト」ファイナリストのストルトン絵美莉さん、堤奈々美さん、江川真唯さん、あさみさん
―――活動期間中はSNSで情報発信していましたが、心がけていたことはありますか?
堤:第一に、私自身のことや活動内容に興味を持ってもらえるきっかけ作りをすること、自分の魅力を発信することを意識しました。具体的には、SNSを見た人が手話や聴覚障がいを身近に感じてくれるように、日常生活で実践できる手話を投稿しました。ほかにも、自分が発信する言葉に責任を持つことを常に心がけていましたね。間違ったことは絶対に伝えてはいけないし、受け取る側の立場をきちんと考える必要があるので、文章にはとても気を遣いました。
―――日常生活で実践できる手話とはどのようなものですか?
堤:私は接客業のアルバイトをしているので、接客業で使える手話動画を投稿したことがあります。すると、その投稿を見てくださった人から、「アルバイト先で聴覚障がいの人が来たときに使ってみたよ」と声をいただき、とてもうれしかったです。
―――堤さんが手話を始めたのは、どのようなきっかけがあったからですか?
堤:私の双子の姉たちは、聴覚障がいを持っています。そのため、幼い頃から手話を使うシーンは日常の光景の一つでした。ただ、姉たちは私より10歳年上なので、一緒に過ごす時間も少なく、私自身が手話を使う機会はあまりなかったんです。けれど、中学生になった頃から、姉たちの会話の中に入ってもっとコミュニケーションを取りたいと思い、本格的に手話を勉強し始めました。
幼少期時代の堤さんと双子のお姉さんたち
―――手話を本格的に学び始める前は、お姉さんたちとはどのようにしてコミュニケーションを取っていたのですか?
堤:両親の教えもあって、小さい頃から唇の形を読みやすいよう発音したり、身振り手振りを交えて大きく話したりするのが当たり前の家庭でした。加えて、指文字を使ってコミュニケーションをとっていました。家のトイレには指文字の表が貼ってあって、いかに姉たちに伝えようか、日常的に工夫してコミュニケーションを取っていましたね。
―――手話をマスターしてから活動の幅も広がったということですが、どのような活動をされてきましたか?
堤:手話を本格的に学び始めると同時に、姉たち以外の聴覚障がいの方々と交流する機会が増えていきました。そうした中で、聴覚障がいを持っている子どもたちの学習支援をはじめ、都内の中学校で聴覚障がい者への理解を深めることを目的として講演や授業を行うようになりました。
中学生時代、講演をしている様子
―――活動を通して、どのような気づきが得られましたか?
堤:聴覚障がいの方々にとっては日常生活の中に壁があるのが普通で、当たり前に我慢してしまっていることがたくさんあることを知ったんです。そのとき、聴覚障がいや手話についてもっと多くの人に知ってもらいたいという思いが芽生えて。自分で勉強してお手伝いして終わりではなく、聴覚障がいの方々の視点を発信していていきたいと決意しました。
―――コンテストでは手話歌を自己PRのパフォーマンスで披露していましたが、どのような思いでステージに立ちましたか?
堤:小さな頃から姉たちの影響で手話歌が身近にあったので、最初から自己PRのパフォーマンスでは手話歌をしようと決めていました。時世的にも、コロナ禍で会いたい人に会えない人という状況が長く続いていたので、大切な人を思い浮かべられる歌詞が印象的なMISIAさんの「アイノカタチ」のを選曲し、手話歌を乗せることでより伝わるように意識しました。
―――実際にパフォーマンスをしてみた感想をお願いします。
堤:実は、私は歌があまり得意ではありません。けれど、手話歌では、ただ歌うときよりも、自分の感情を乗せて歌うことができるので、気持ちを込めてパフォーマンスできました。歌詞の内容を自分なりに汲み取り、手話に置き換えて、目の前の人に思いを届けるような気持ちで何度も練習を重ねました。本番では、パフォーマンスを見てくださった方々に感謝の気持ちを届けられたと思います。
「手話を使って会話することは楽しい」と話す堤さん
―――スピーチではどのような思いを込めましたか?
堤:SDGsの理念でもある「誰一人取り残さない」を最終的なメッセージとしてスピーチしました。具体的には、私自身がインタビューして得た聴覚障がい者の生の声を取り上げ、彼らの日常生活でぶつかる壁や非常時に想定される困難について発表しました。聴覚障がい者は、外から見ただけではサポートを必要としているのかが分かりにくい。しかし、火災などの緊急時や災害時、警報音や外の雨風の音が聞こえずに非難が遅れるかもしれないと、絶えず不安を抱えています。ですから、聴覚障がい者を含む災害時要支援者への、それぞれの特徴に応じた避難協力が必要だと私は感じました。SDGsの目標10に「人や国の不平等をなくそう」とありますが、私は日常生活だけでなく非常時においても誰一人取り残されることがあってはならないと考えています。
―――「誰一人取り残さない」社会を創造するために、堤さんが普段の生活で意識していることはありますか?
堤:自分が中心になって活動するときは、一人ひとりの対話を大切にするようにしています。私自身、中学では学級委員長と生徒会を、高校のダンス部では部長を務めていただいたのですが、リーダーとして背中を見せ引っ張っていくだけでは、同じ目標に向かうのは困難であるということを学びました。そこで、メンバーの意見にも耳を傾け、相手に合わせたコミュニケーションを取ることで、大きな目標を成し遂げることができたという経験があります。そういった経験もあり、一人ひとりの対話を大切にすることが「誰一人取り残さない」社会に通じるのではないかと考えています。
―――堤さんが将来、実現していきたいことは何ですか。
堤:私は将来、より多くの方に、社会問題に興味を持ってもらうきっかけを与えたり、新しい価値を提供しより良い社会の実現に貢献したりするお手伝いをしたいと考えていました。加えて、今回、コンテストを通じて情報発信にやりがいを感じることができたので、現在はメディア関係のお仕事やアナウンサーを目指して頑張っています。
メディア関係およびアナウンサーを目指して勉強中の堤さん
―――本日はありがとうございました! 赤坂経済新聞では、堤さんの今後の活躍を期待しています。
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堤奈々美さんプロフィール画像
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