昭和のレトロな雰囲気を再現
「~Song bar street~ 赤坂小路」がオープンしたのは、今年4月10日。飲食店事業を展開するフード・バリュー(渋谷区)が赤坂に出店していた高級カラオケ店「Voice」をリニューアルし、飲食だけではなく「歌って飲める」空間を提供する新しい飲食アミューズメント施設として開業した。個性的な8店舗の飲食店が集う横丁街を展開することで、赤坂の街に新しい文化を吹き込み、活性化を狙う。
同プロジェクトのコンセプトデザインと全体の指揮を執るのは、空間デザイナーとして話題を集めるスタジオナガレの横井貴広さん。恵比寿の横丁プロジェクト「恵比寿横丁」を成功させている浜倉好宣さんが運営アドバイス、飲食店専門のニュースサイト「フードスタジアム」の佐藤こうぞう編集長がプロモーションディレクターを務める。施設のデザインだけではなく、各テナントのテーマや内装も、3人がアイデアを結集しプロデュースした。
「赤坂小路」は新宿ゴールデン街のようにさまざまな店が並ぶ横丁をイメージしてデザインした。各店をつなぐ通路は正に飲食店が並ぶ路地のような雑多な雰囲気を演出した内装で、昭和レトロなムードが漂う。リアルさを追求し、実際に新宿ゴールデン街に存在する店の看板なども設置するこだわりぶりで、通路にはビールケースで作った机などを設け、通路でも飲食が楽しめるようにした。「赤坂小路」のチラシにはチンドン屋が登場しプロモーションするなど、「昭和」の雰囲気にこだわりをみせる。
元々カラオケ店として展開していた空間をそのまま店舗として利用し、カラオケの設備も残すことで、「食べて、飲んで、歌える」ことを楽しめるようにした。各店舗は飲食がメーンの店やバーがメーンの店などそれぞれ役割を変えることで施設内の回遊性を狙う。40~50代にとっては懐かしく、20~30代にとっては新しく感じるような複合飲食店として展開していく方針。不定期で「流し」のギター弾きも登場し、常に「歌声」がこだまする新しい飲食アミューズメント施設として展開する。
独立希望者のインキュベーショとして展開
「赤坂小路」はフード・バリューのコンセプトである独立希望者のインキュベーションも目的の1つになっている。出店の際に必要な敷金・礼金や内装工事費を取らずに初期設定費用のハードルを下げることで、若手の飲食店経営者の独立を支援。テナントを小規模にし、出店者やオーナーの負担やリスクを軽減することで、インキュベーションを実現する。
提供するフードのメニューも、実際に店舗で調理する2店舗以外の6店舗の料理を、フード・バリューが展開するセントラルキッチンで調理。各店のオーナーとセントラルキッチンでそれぞれの店舗にあった料理を決めて、オリジナルのメニューを提供。調理をセントラルキッチンが行うことで、それぞれの出店者が接客やドリンクの提供に集中できるようにし、料理のデリバリーにも対応する。
「恵比寿横丁」を成功させた浜倉さんが各店のメニューについてもアドバイスを行い、運営面でも若手経営者の独立をサポート。店舗コンセプトや内装は横井さんが手掛けるなど、全面的に各オーナーの独立を支援する体制が整っている。
新しい飲食アミューズメント施設として赤坂を活性化
「赤坂小路」の最大のテーマは「赤坂の街の再生」。ひと昔前までは、「夜の街」「大人の遊び場」として栄えていたが、経済の変化によって下火になってしまった赤坂に新しい複合飲食アミューズメント施設を展開し、再活性化を狙う。単にカラオケや飲食店として展開するのではなく、エンターテインメント性の強い施設にし、20~50代の幅広い層が利用できる施設にする。
「これまで20~50代の各世代の人たちが交わる場所があまりなかった。『カラオケ』というものが重要なコミュニケーションツールになっていると感じ、『歌う』ことでそうした世代の垣根を越えてコミュニケーションが取れるような施設にしようと思った」とスタジオナガレの横井さん。各年代が集まれるような施設にし、世代を越えた「新しい出会い」ができるような場所として提供。価格設定も低くすることで、若い人たちが足を運びやすい環境を作り、赤坂に若者を呼び戻す狙いだ。
横丁プロジェクトが流行る理由と今後の可能性
恵比寿の「恵比寿横丁」や「EBISUノ536」など、各地で次々と展開される横丁プロジェクト。「現代は高級なものより、安くておいしいものが求めえられている。さらにストレスを発散できる場所や癒やしてくれる場所が付加価値として求められている。横丁が各地で流行っているのも人々と触れ合い、癒やされることを求めているから」と横井さん。
その中で「赤坂小路」は他の横丁プロジェクトとは異なり、「カラオケ」をコミュニケーションのキーワードに据えた。他の横丁プロジェクトのように小規模の飲食店の集合体とは異なり、一つのコンセプトで統一する飲食アミューズメント施設として展開することで、店舗同士のコミュニケーション自体も促す。
「横丁のような文化は今のような時代にこそ求められており、今後も数が増えていくのでは。しかし、同じような施設ばかりでは飽きられてしまうため、それぞれの横丁のオリジナリティーや個性が必要」(横井さん)。新橋などではなく、若い人が集まるオシャレな恵比寿や高級店の多い赤坂などに横丁が出現するというギャップも横丁が受けている要素の一つと見ており、エリアも重要視しているという。
「『赤坂小路』の利用者は最低でも2店舗以上回っていく。カラオケで、皆で一緒になって盛り上がったり、あちこち店舗を回ったりするなどクセになる要素が多いので、一度来てもらえれば確実にリピーターになっていただける」と横井さんは自信をみせる。
後編に続く