赤坂駅改札前のサイネージで展開中のデジタルアート作品「AKASAKA Motion Heritage(アカサカ・モーション・ヘリテージ)」。赤坂を代表する芸者・赤坂育子さんの所作を最先端の3D計測技術で記録し、抽象化したビジュアルとして街に映し出しています。通行人の動きもリアルタイムで取り込み、いまの赤坂の風景と重ね合うことで、作品として立ち上がっていくのが特徴です。
今回は、同作を手がけたWhatever でテクノロジスト/ビジュアルアーティストの松山周平さん、Whateverでプロデューサーの福地諒さん、TBSの増田隼人さんに、企画の狙いや制作の裏側、そして赤坂という街への視点をお聞きしました。

「AKASAKA Motion Heritage」
――まずは、お一人ずつ自己紹介をお願いします。
松山周平さん:ビジュアルアーティストとして活動する傍ら、Whateverに所属し、別会社「enigma」も運営しています。リアルタイム処理を伴うインタラクティブな表現を多く手がけ、伝統文化とデジタルを掛け合わせる仕事も多いです。
福地諒さん:Whateverでプロデューサーを務めています。空間や体験を中心に、枠を決めずにさまざまなものをつくってきました。今回も、街と作品をつなぐ立場で企画に関わらせていただいています。
増田隼人さん:TBSで赤坂エンタテインメント・シティプロジェクトに携わり、赤坂駅直結ビルの開発と並行して、街をソフト面でも盛り上げる役割を担っています。

松山周平さん
――さて、今回の「AKASAKA Motion Heritage」は、どんな作品なのでしょうか?
松山さん:赤坂育子さんの所作を、「ボリュメトリックキャプチャ」という3Dスキャン技術で収録し、そのデータを使ってビジュアルアートとして作品化しました。元データ自体は十分に価値があるものですが、今回はあえて写実性を引き算し、動きの速さやベクトルといった「所作そのもの」にフォーカスしています。
増田さん:行き交う人も作品の中に入り込んでいくのがポイントですよね。
松山さん:ええ。作品の近くには、行き交う人をリアルタイムでセンシングするカメラも設置しています。通行人の動きは映像の中に取り込まれ、育子さんの所作と重なり合うように表現が変化していきます。

福地諒さん
――この作品、街の中ではどのように見えてくるのでしょうか?
松山さん:遊べるコンテンツというより、街にインストールされたパブリックアートとして成立することを意識しています。
福地さん:ただ目の前に立って遊ぶインタラクティブ作品ではなく、街の中に自然に置かれていて、気づいたら自分も作品の一部になっていた、くらいの距離感を目指しました。
増田さん:サイネージに映し出される風景は、一つとして同じものがありません。街の景色も葉っぱ一枚違えばもう別の表情になる。この作品も、そんな街の風景に近い感覚を生み出していると思います。

増田隼人さん
――制作はどのように進んだのでしょうか?
福地さん:もともと、育子さんの動きをアーカイブしようというプロジェクトが先にありました。そのデータを街の中でどう展開するかを考える中で、赤坂そのものともいえる育子さんの所作を、街を歩く人たちと混ざり合わせる表現ができたらおもしろいんじゃないか、という話になりました。
増田さん:まず育子さんの撮影を行い、その後に制作へ。撮影はTokyo Node Labのスタジオをお借りし、何十台ものカメラに囲まれたグリーンバック空間で踊っていただきました。
福地さん:掲出場所は、最初からこの赤坂駅前のサイネージと決まっていたわけではなく、データを街のどこでどう生かすか、という発想から始まったのが今回のユニークなところだったと思います。
――表現面で意識したことはありますか?
松山さん:かなり試行錯誤しました。初期段階では6、7パターンほど別の見せ方も作っています。どうしたら動きそのものが最も美しく見えるかを探る作業でした。
増田さん:最初はもう少し育子さんの形を残した方がいいのでは、とも思っていました。ただ、試作を見ながら、抽象化することで見えてくる価値があるのだと理解していきました。
福地さん:引き算しすぎると何でもない映像にも見えてしまう。その境目を探るのは難しかったです。ただ、イベントのための一時的なコンテンツではなく、街にインストールされるものとして成立させたいという意識は強くありました。

紫色の部分が、通行人の動きを反映した表現
――育子さんの所作や存在の魅力を、どう感じましたか?
松山さん:やはり所作の美しさですね。専門知識がなくても、際立った美しさが伝わってくる。写実性を薄めて抽象化しても伝わるだろうと思えたのは、育子さんの身体表現そのものの強さがあったからです。
増田さん:撮影では、床も畳ではなく、動ける範囲も限られていたのですが、それでも一発撮りで見事に収められた。長年培ってきたプロフェッショナルを感じました。
松山さん:僕は、元になる被写体の力が作品の質を大きく左右すると思っています。育子さんの所作には、それだけ作品として立ち上がる強さがあった。データとして見ても、今回は非常に魅力的なものになったと感じました。
――芸者文化が残る赤坂という街は、どのように見えていらっしゃいますか?
松山さん:赤坂芸者のような長い歴史がある一方で、TBSがあって、ビジネス街の顔もある。でも、それらがまだ十分につながって見えていない印象がありました。今回の作品は、その間をつなぐ試みでもあったと思います。
福地さん:赤坂って、今からまだ定義できる街だと思うんです。歴史を大事にしながら、今いる人や文化も含めて、これからどういう街でありたいかを考えられる余地が大きい。そこがおもしろいところだと思います。
増田さん:赤坂は一言で決めつけにくい街です。その“カオスさ”がむしろ“可能性”なんじゃないかと思っています。だからこそ、新しい表現や技術も試していきたいです。

2面にわたって掲出される作品
――最後に、現地を訪れた人へメッセージをお願いします。
松山さん:街の中にこういう作品があること自体を素敵だと思ってもらえたらうれしいです。通った人が作品の一部になっていく、一方的な映像とは違うコミュニケーションが生まれています。
福地さん:作品を見ていると思ったら、自分も作品の一部になっている、どちらにもなり得る感覚をいろんな視点で楽しんでもらえたらと思います。
増田さん:芸者文化や赤坂そのものを、読み物や写真ではなく体験から入っていく。そんなコミュニケーションのきっかけになればうれしいです。
――松山さん、福地さん、増田さん、ありがとうございました!

(左から)増田隼人さん、松山周平さんさん、福地諒さん
赤坂育子さんの所作をもとにしたデジタルアート作品「AKASAKA Motion Heritage」。赤坂の伝統文化の一つである芸者の所作と最新のデジタル技術が重なり合うことで、新旧の魅力が交差する、赤坂らしい風景が映し出されています。
展示は3月22日まで。赤坂の街を行き交う人々とともに表情を変える作品を、現地で体感してみてください。
<作品情報>
「AKASAKA Motion Heritage」
展示場所:赤坂駅改札前B1二連サイネージ
展示期間:3月13日~3月22日
展示時間:1部(3月13日~15日)9時~18時/2部(3月16日~22日)一定間隔で上映